ツカツクリという鳥は、産み落とした卵を自分の体温でかえすのではなく、落ち葉などで造った塚に埋め、醗酵熱を利用してヒナをかえすといいます。
親はクチバシで頻繁に温度を計り、覆った土や葉を増減させて孵化に適した温度を保つのです。ツカツクリにとって巣は単なる住みかではなく体の一部として機能しているわけです。
民家をながめる時、いつもこの話を思い出します。以前かかわった飛騨白川郷の合掌造り民家の調査を通して感じたことは、家は人間にとって単なるシェルターではないということです。
民家は結(村落共同体互助組織)という社会システムと自然環境と村人が有機的な相互関係をつくりながら、職人衆との共同作業を通して生み出されます。そして家はその環境にとけこんで、人の生活とともに地域の生態系の一部に組みこまれて生きてゆくのです。ちょうどツカツクリの巣のように…
民家を通して建築の生命とか魂(スピリット)というものを想いおこします。建築には経済、法律などの様々な制限や制約がありますが、できうるならば、近代の合理的システムの中で数値化され分断されてきた、製作プロセスや伝統の構法を、復元力に富んだ「総持ち」の、有機的な一者としてもう一度とらえなおし、建築物をトータルな意味での生態系の一部となりうるような仕事を模索したいと思います。