セルフビルド・ハーフビルド

 私の建築の原点は、離島の三宅島という過酷な自然の中で、伝統の建築の原理原則を頼りに建築を続けてきた宮下棟梁が指導した自力建設の建物です。
 台風、地震など自然災害の多い日本の風土にさからわず、それぞれの力量にあった、先人の技術を学ぶプロセス、結(ユイ・村落共同体の互助組織)のように人と人が協力しあうプロセスの中から、困難をこえて見つけていくものは大きいと思います。

 現在、建築は専門家の手によってつくられるのが常識となっています。しかし、自分の家の建設にあたって、どこかに自分の手の痕跡を残したいと思う人も少なくありません。様々な技術と要素の複合でできている今日の住宅は、素人だけの力でつくりあげるには困難が大きすぎるのは確かですが、個々のケースに応じたセルフビルド・ハーフビルド(何らかの形による建主の建設への参加)を設定することは可能です。お金はないが時間がある人、建設を通してなにかを実現したい人等、その動機や目的は様々でも、商品のように家を買うのとは違い、自然環境や素材と関わり、作るプロセスの中からしか生まれないもの、見えてこないものもあります。自然と人間、自力と他力、精神と肉体等の相互の関係を通してセルフビルドをすることで、建物が単なる箱ではなく建主自身を投影し、何かを生み出す母体となりうる建築になることを願っています。


この「セルフビルド・ハーフビルド」のページを閲覧する方が増えてきました。そこで1993年に「ワードマップ現代建築-ポスト・モダニズムを超えて」(1993年同時代建築研究会著  新曜社刊)に寄せた一文を加筆し、コラム欄に掲載することにしました。セルフビルド ― 精神と肉体の二重ラセン